“The only goal of our department is to support the future visions of our faculties in whatever fields under one condition — that you must be at the top of your field in the world”
以前の記事、アメリカの宇宙業界で就活で紹介したように、Assistant Professor of Aerospace EngineeringとしてUniversity of Illinois Urbana-Champaign(UIUC)にいくことに決めました。上の言葉は最終面接で学科長から頂いたものです、かっこよすぎる、、、
UIUC Aerospaceは、常に全米トップ10に入る名門校で、伝統的に僕の専門分野、宇宙探査と制御工学が非常に強いビッグネームです。最寄り(といっても車で2時間、UIUCの周りはトウモロコシ畑)の大都会、シカゴは、あの伝説の映画Batman Dark Knightの舞台となった場所で、住み慣れたロサンゼルスを離れるのは少し寂しい気持ちもありますが、新しい街での新しい生活にワクワクしています。
僕の分野は、Machine learning & AI・control theory・robotic & aerospace autonomyという世界中で現在非常にホットな分野です。そのおかげで今年はアメリカでもたくさんの大学が教授を募集していました。一般的には、200-300人の博士号を持った応募者と、1つの枠を争うことになります。大学院生として応募した僕の体験談が、同じような立場の人の役に立つことを願っています!
アメリカ教授の仕事
この記事でも書いたように、アメリカ助教の最大の特長・魅力はその主導権です。
- 1年目にstart-up fundingと呼ばれる$100,000から$1,000,000程度の研究資金が支給され、研究室主宰者として、研究の方針と結果に関する最終決定権を持ち、その責任を負う
- 継続的に研究を進めるための資金を集める
- 専門分野に関する教育、学生・ポスドク・研究員の指導を行う
- Diversity・Equity・Inclusion(DEI)の推進に貢献する
- 大学・地域コミュニティー・社会の維持と発展に様々なレベルで貢献する
(ちなみに、アメリカのAssitant Professorと助教は中身がかなり違うらしく、本当は助教と呼ぶのは正しくないみたいです、、)
というわけで、僕が採用プロセスで特に意識し続けたのは
- 相手の求めているものに合わせるのではなく
- 自分のやりたいことの素晴らしさと実力を全面に押し出してそれを相手に求めさせる
ことです。いかに自分のやりたいことに情熱と自信を持って、先頭を突っ走れるかが評価されます。
というか、正直何を評価されるのか分からないことも多いので、僕は自分全開のこのスタイルを貫きました、少なくともストレスフリーです。
準備する書類・業績
アメリカの大学教授の選考プロセスは、アメリカの大学院受験と仕組みはよく似ています。求められるのは
- 推薦状5通
- Research statement
- Teaching statement
- Diversity, Equity, and Inclusion (DEI) statement
- Service statement
- 代表的な論文3本
- 履歴書
- Cover letter
です。応募した際の僕の情報を公開しておきます。
- カリフォルニア工科大学(Caltech)博士課程6年生
- インターンなし
- 共同研究 with NASA JPL・Raytheon
- 学会含む査読論文12本(10本第1著者)、引用170ぐらい
実はトップスクールで最終選考まで残る応募者の多くはポスドク、他の大学の助教なので、僕のように大学院生で応募する場合、研究業績等のスペックは彼らに比べるとかなり見劣りしてしまいます。
今ある業績と野心的なビジョンを最大限にアピールすることさえできれば、大学院生でもAerospaceのトップスクールで勝ち残る希望はわずかにあります。
推薦状5通
僕の場合
- Caltechの指導教員(Full Professor of Control and Dynamical Systems・NASA JPL Senior Research Scientist)
- MITの共同研究先の教授(Full Professor of Mechanical Engineering・Information Sciences・Brain and Cognitive Sciences)
- NASA JPLの元CTO(JPL Fellow・Senior Research Scientist・Principal Engineer)
- MITの共同研究先の助教(Assistant Professor of Aeronautics and Astronautics)
- Carnegie Mellon Universityの助教・研究室の同期(Assistant Professor of Robotics)
から推薦状を書いてもらいました。この記事に以前書いた通り、基本的には指導教員と共同研究先の教授にお願いするのが最善だと思います。
InterfolioのDossierというサービスを利用すると、推薦状の大学への送付を代行してくれます。推薦者の方々に、何通も推薦状をアップロードをしてもらうよりも圧倒的に効率的なので必ず利用しましょう。
その他出願書類
Research・Teaching・DEI statementでは、この記事で説明したような内容に加えて、今までの
- 研究実績
- 教育、DEI、社会貢献に関する経験、考え、計画
についても書かなければいけません。特に教育とDEIに関しては、出願経験のある方々にお願いして非常に参考にさせて頂きました。ネットの記事、例えば
もある程度参考になります。
これらで求められる内容は分野と大学によって大きく異なるので、一般論としてまとめるのは控えますが、もし興味がある方がいれば相談に乗るので教えてください。また、時間があれば、大学にあるWriring centerを利用して文章の添削、内容のブラッシュアップをするのも非常におすすめです。
教授選考のタイムライン
典型的なタイムラインは
- 11月から1月ごろ:応募書類締切
- 12月から2月ごろ:Phone interview(Zoomで面接、30分から1時間)
- 2月から4月ごろ:On-site interview(大学で面接、丸2日)
です。Phone interviewのスタイルは、大学によりますが、
- 5分から15分プレゼン → 残りの時間研究、教育、DEI、社会貢献についての質問に回答
- 30分間研究、教育、DEI、社会貢献についての質問に回答
- 30分間事前に送られてきた質問リストに回答
の3つのパターンがありました。一見すると、この記事(アメリカの宇宙業界で就活)で紹介したTesla Botのような、インダストリーの場合よりもプロセスが少なく楽そうに見えるかもしれませんが、毎回の面接で、
- 自分の研究がいかにユニークかつ優れていて、つまり世界でトップであって
- 分野の非常に重要な課題を解決していて
- 教育、DEI、社会貢献に対して確固たる意見とビジョンがあって
- 大学のビジョンと照らし合わせた時に大学が投資する価値とポテンシャルがある
ということを、各々の専門分野でトップを走る教授たちに短い時間で誤解なく伝えなければなりません。どれだけ研究が優れていても、それが大学が求めているものでなければ簡単に落ちるので、ある程度運に身を任せるしかないと開き直って、自信を持って自分の喋りたいこととひたすら喋り続けましょう。
幸運にも所属する研究室から、今年僕を含め3人応募していたので、大学の公募の情報や選考の状況や心情をお互いにシェアして、励まし合いながら進めたのは本当に助かりました。
ちなみに、面接でよく聞かれる質問リストはネットにたくさん転がっています(例えばこの記事)。
最終面接体験談
Phone interviewを突破すると、2月から4月ごろ、On-site interview、大学を直接訪問し、丸2日かけて研究・教育・DEI・社会貢献の経験とビジョン、そして人間性をあらゆる角度から評価される、最終面接が待っています。
- 学科の教授ほとんど全員と1対1の面接
- 他学科の教授で近い分野の教授と1対1の面接
- Job talk(45分から1時間の研究プレゼン、その後15から30分質問攻め)
- 教授たちとランチ・ディナー・コーヒー
この段階に来ると、研究者、教育者として、世界トップレベルの素質を持っていることはもちろん、同僚としての親和性もかなり重要視され、それが面接のプロセスにランチやディナーが入っている理由です。
アメリカの大学では各々の教授の主導権を最優先し、各々が独立した研究者・教育者、そして研究室の長として対等に扱われるため、人間性や学科の雰囲気との親和性を大切にするのは納得できます。
1対1の面接
普通の人間関係でも、相手のことを知ろうとせず、どちらかが一方的に自分の話ばかりしていて、良い関係が築けることって少ないですよね。1対1の面接では、バックグラウンドの異なる人と、会話しながらお互いの仕事を知り合って仲良くなるぐらいのつもりで臨むと、緊張するどころかこのプロセスを楽しむことができるはずです。
(このマンガのシチュエーションでストレス感じた経験ある人かなり多そう、共感しました気をつけます)
私は、一方的に話し続ける人と自分は喋らなくてもいいと思ってる人がニガテです。|魔女りてぃ.ネット
元・婚約者に自分のコミュニケーション能力のことを 「むしろ、すごいわ」 と言ってもらえた経験が …
面接を度外視して考えると、第一線で活躍する研究者たちとカジュアルに喋れるってすごいことで、評価されているとはいえ十分に楽しむ権利はあります。
ということで僕は、自分の研究が自分の分野で世界一であるという自負を持ち、その分野の権威として確固たる自信を持って、将来の同僚になる(予定の)教授たちと対等な立場で、相手を尊重しつつ、面接ではなく会話をすることを心がけました。
いわゆる面接のように、相手に感心してもらうことばかり考えるのではなく、相手に興味を持ち、リスペクトを示して、僕の分野と彼らの分野がどう関係して新しいものが生まれていくのかを議論するのが楽しむコツです。
具体的なアドバイスもリストしておきます。
- 学科の教授の研究や業績について知っておく
- 大学の強みや自分の研究の位置づけがはっきりします
- 研究のプレゼン後の質問を想定するのにも役立つのでおすすめです
- こちらから質問することも多いので、事前に幾つか準備しておく
- この記事にたくさん例が載っています
- “What are the differences of your work from your advisor’s?”に対する答えを用意しておく
- 今後は独立した研究者として、独立した研究分野を確立することが求められるので、必ず問われます
Job Talk
On-site interviewで最も重視されるのがJob talk、セミナー形式での自分の研究とビジョンのプレゼンです。プレゼンにはさまざまなスタイルがあり、得意なスタイルを貫くのが一番だと思いますが、僕が意識しているのは
- 最初の10-15分:研究によって達成される野心的なビジョンの説明
- 必ず誰でもわかるように説明してオーディエンスになんとか興味を持ってもらう
- 次の25-30分:今までの研究業績についての説明
- その内7割はほとんどのオーディエンスがわかるような内容で
- 残り3割は自分に近い分野の研究者があっと驚くような内容で構成する
- 最後の10-15分:具体的は将来の研究計画の説明
- アイディアを文字で列挙するのではなく、コンセプトを図で説明する
- オーディエンスのバックグラウンドを知って、できればそれに基づいて説明の仕方を変える
- 自分の分野の権威として自信を持って話す
- ひたすら練習
どれも特別なことではないですが、研究ばかりしていると、つい前提、背景、解釈の説明を忘れてしまうことが多いので意識するようにしています。
特に、他分野の人と同分野の人を同時に感心させられるプレゼンを作るのはかなりの時間と労力がかかりますが、これも研究者として必要な能力の1つだと思い腹を括りましょう。自信は練習を積めば自然とついてきます。
最終結果
最初に書いた通り、僕の分野は世界中で現在非常にホットな分野です。それゆえ教授を志望する人も非常に多く、(例えばUniversity of California, Berkeleyによると)200-300人の博士号を持った応募者と、1つの枠を争うことになります。正直、大学院生の身分で、彼らと同じ土俵で戦うのはなかなか厳しいものがありました。
そんな中、熾烈な競争を経て、トップスクールで唯一オファーをもらえたのがUIUC Aerospaceでした。
Home
Department of Aerospace Engineering, Grainger College of Engineering, University of Illinois at Urbana-Champaign
最終面接後はドキドキして研究にも遊びにも集中できない時間が続いてもどかしかったです。ついに理想の舞台で、やりたいことに没頭できる環境が手に入り最高の気分です。参考に、Phone Interviewを受けた大学のリストを載せておきます。
University | Department | Phone Interview | On-site Interview |
Arizona State University | Robotics | Fail (Dec.) | N/A |
Duke University | Mechanical | Fail (Feb.) | N/A |
Georgia Institute of Technology | Aerospace | Fail・残り6人 (Jan.) | N/A |
Rowan University | ECE | Fail (Jan.) | N/A |
University of California, Berkeley | Mechanical | Fail・残り20人 (Jan.) | N/A |
University of Colorado Boulder | Mechanical | Pass (Jan.) | Waitlist |
University of Illinois Urbana-Champaign | Aerospace | Pass (Jan.) | Pass (Feb., offer in Mar.) |
University of Michigan | Robotics | Fail (Jan.) | N/A |
University of Texas at Austin | Aerospace | Fail (Dec.) | N/A |
受けた大学全て載せたいのですが、あまりにも多いので(約100ポジション)諦めます。皆さんが思いつくようなAerospace系のトップスクールは全て受けていると思います。学科で言うと、主に
- Aerospace Engineering
- Robotics
- Mechanical Engineering
- Computer Science
- Data Science
- Electrical and Computer Engineering (ECE)
- Electrical Engineering
に応募しました。宇宙大好きが抑えられず、志望動機で宇宙探査のことばかり書いていたので、結果としてほとんどAerospaceか、あるいは戦略的にAerospaceの分野を大学として推し進めている大学からのインタビューが多かった気がします。
実はUIUCとGeorgia Techに関しては、僕と、同じ研究室の友人どちらも選考に残り、お互いに潰し合いました。一緒に教授になれたのはアツすぎる!将来共同研究して仲直りします。
最後に
実績、人脈、運全てを最大限に利用してやっと掴んだオファーなので、応援し支えてくれた方々には本当に感謝しかありません。ありがとうございました。
どれだけ実力や情熱があっても、人生どうなるかは最終的には運次第な気もします。それでも、もっともっと大きな舞台でサイコロが振れる人生であり続けたいです!
(この動画にも支えられた、この作品をつくった人たちはなんて豊かな心を持ってるの)
素晴らしい挑戦の歴史を示していただきありがとうございます。これからの活躍をお祈りいたします。
温かいお言葉誠にありがとうございます、これからも精進してまいります。