宇宙工学博士になりました、やったぜ。
これまでたくさんの方々に読んでもらえてとても幸せです、ありがとうございます。これからも読んでね。
Defenseとは
アメリカの大学院で博士号(Ph.D.)を取得するにはDefenseと呼ばれる最終試験を突破しなければなりません。
名前の由来は、分野の権威5人によって構成されるThesis Committeeからのあらゆる指摘・質問攻め(オフェンス)から、博士候補生が自ら提唱する理論を防衛(ディフェンス)する様子に基づきます、たぶん。
人生もスポーツもオフェンス一択の僕にとっては明らかな苦手分野です。
Caltechでは、博士号の取得に関して、必要な論文の本数等の条件は何一つ設けていません。執筆した論文が0本であろうが100本であろうが関係なく、研究成果が、Caltechの博士号を授与するに値する、卓越した学術的インパクトをもたらしているかどうか、の一点のみで評価されます。
アメリカの大学院ではおそらくこれがスタンダードだと思います。具体的には
- パブリックに向けて1時間プレゼン
- その後プライベートで1時間Thesis Committeeから質問攻め
の2部構成になっていて、1に関してはなんとなく想像はつきますよね、この記事で紹介したセミナーと似たような感じです。この記事では、最終関門、2について、僕の体験談を紹介します。
vs. 学術界最高戦力
2がDefenseのメインステージです。博士課程の第二関門:Candidacy Examと同様に、Defenseの準備はThesis Committeeを引き受けてくださる方々を探すところから始まります。僕の場合は
- 制御理論の超超大御所A(黄猿)
- 制御理論の超超大御所B(青雉)
- 宇宙構造力学の超超大御所(赤犬)
- NASA JPLのトップ(センゴク)
- 指導教員(ガープ)
に審査をお願いしました。僕と同じ分野の人ならすぐにわかると思いますが、本気になれば余裕で世界をひっくり返せるぐらいの知識と影響力を持っている学術界最高戦力です。
つまり
こうです。おれルフィ。
このステージでは、Thesis Committeeのメンバー全員によって、
- 提唱する理論の妥当性
- それに基づく研究成果とビジョンの質
の主に2つについて、あらゆる角度からの検証が行われます。どのような指摘や質問が来るかはもちろん事前には予想できないので、
- 自らが提案する理論の理解の深さ
- 新しい研究課題への臨機応変な発想力
- 潔くわからないことはわからないと認める姿勢
を最大限に使って、攻撃から自分の提唱する理論を守り切らなければなりません。特に3つ目は重要で、わかっているふりだけは絶対にしないように!一流の研究者であればあるほど分からないことに対して純粋に向き合っている気がします。かっこいい。
ちなみに、僕の専門分野は宇宙探査・ロボットの完全自律化です。いくつか覚えている質問を噛み砕いて紹介します。
- ロボットや宇宙機の行動に強い制約があるときにAIを使っても数学的な保証はあるのか
- 深宇宙等データが限りなく少ない場面でAIを使っても数学的な保証はあるのか
- AIや機械学習というツールが存在しない世界でも提唱する理論には学術的・数学的な価値はあるのか
- ロボットや宇宙機のAIに異なる意味での最適性を要求しても数学的な保証は得られるのか
- 機械学習の異なる手法と提唱する数学保証の互換性はあるのか
- 制御理論の異なる手法と比較した際どのような利点と欠点があるのか
- NASA JPLとのプロジェクトについて、そもそも宇宙探査にAIや機械学習は必要なのか
噛み砕くの難しい!もっと噛み砕くと
- よわいロボットでも宇宙で生きていけますか
- 宇宙行くのはじめてでも生きていけますか
- おまえの考えあたらしいですか
- おまえのAIほかに何ができますか
- ちがうAIと友だちになれますか
- ほかのAIよりつよいですか
- 宇宙行くのにAIいりますか
みたいな感じです。全ての質問に回答し終わると、僕は一旦退室を命じられ、Thesis Committeeのみで、研究成果が、Caltechの博士号を授与するに値する、卓越した学術的インパクトをもたらしているかどうか、つまり、博士号を与えるかどうかの判断を下す最後の話し合いが行われます。
扉が開いて”Congratulations, Dr. Tsukamoto”と迎え入れられたときの達成感、一生忘れない気がします。
しかも、Thesis Committeeメンバーの一人で、
- 通常200語程度の論文の要約を “There are none.” の3語だけで発表して引用されまくったり(この論文)
- 自分の指導する学生でも内容が気に入らなかったら共著者にならなかったり
と、数々の逸話を残す生きる伝説のような教授に、“I love your thesis”って言われちゃいました。うれしい。僕も彼らのように、いつまでも誰かの目標となる生涯現役の研究者であり続けたいです。
これから
5年7ヶ月、本当によく頑張った、えらい。嬉しかったこと、悔しかったこと、楽しかったこと、辛かったこと、全て含めて何一つ悔いのない、かけがえのない学生生活でした。支えてくれた方々全員に恩返ししたいです。
素晴らしい研究環境・資金を提供してくれたCaltech・NASA JPL・MIT・Raytheon・DARPA・船井情報科学振興財団・本庄国際奨学財団にも本当に頭が上がりません。ありがとうございました。
最後に、最高の友達と家族、応援してくれてありがとう。
このブログのサブタイトル(Caltechで宇宙工学博士を目指す大学院生のブログ)に掲げた目標をついに達成したので、別の何かのテーマで第2章、始めます。